top of page
大脳皮質のうち、特に高等動物で大きく発達した大脳新皮質の神経細胞は、脳表面に平行な6層からなる層構造を呈する。神経細胞全体の約8割は興奮性神経細胞(繋がった相手の細胞を興奮させる細胞)、約2割は抑制性神経細胞(繋がった相手の細胞を興奮しにくくする細胞)であるが、興奮性神経細胞の多くは直下の脳室面及びその近くで誕生し、脳表面の辺縁帯直下まで放射状に移動してその移動を終える。その過程を繰り返すことにより、(最も早生まれの辺縁帯の細胞を除き)早生まれの神経細胞ほど最終的により深層に配置され、遅生まれの神経細胞ほどより浅層に配置される(“inside-out”様式)。すなわち、大脳新皮質の各層は、それぞれ誕生時期もかなり共通の神経細胞たちから構成されているということになる。発生過程においてこの神経細胞の適切な配置が乱れると、生後の脳の機能は異常になり、様々な精神神経疾患の発症リスクが高まると考えられている。そこで本プロジェクトでは、大脳皮質の層構造や細胞間の関係が発生過程において正しく形成されるしくみを解明することを目指す。
この“inside-out”様式での細胞配置には、辺縁帯のCajal Retzius(カハール・レチウス)細胞から細胞外に分泌されるReelin(リーリン)というタンパク質が重要な役割を果たしている。Reelinが欠損した突然変異マウスreelerは、層構造が全体としてほぼ逆転するという大きな特徴を示すことから多くの研究者の興味をひき、1951年にreelerマウスが初めて報告されて以来、世界中で様々な研究がなされてきた。しかしながら、Reelinは移動神経細胞に対していかなる生物学的機能を有し、その欠損によってなぜ層構造が大きく乱れるのかは、未だによくわかっていない。我々は、Reelinの機能を明らかにすることを通して、大脳皮質という機能的細胞社会が適切に形成されていくメカニズムを理解したいと考えている。
1) Reelinが神経細胞移動の最終ステップを制御する機構
2) Reelinが神経細胞の凝集を誘導することの発見とその機構
3) Reelinシグナルを神経細胞内に伝達するアダプター分子Dab1の解析
bottom of page