細胞分化プロジェクト Cell Differentiation Project

 大脳新皮質の各層を構成する神経細胞は、層ごとにそれぞれ特徴的な機能や形態、軸索投射様式を有する細胞として分化している。たとえば、IV層は視床から大脳皮質への入力を受ける比較的小さな星状の神経細胞(spiny stellate neuron)から主に構成され、II/III層は大脳皮質の領野間を長い軸索によって連絡する錐体細胞(pyramidal neuron)が主な構成細胞である。大脳皮質内で処理された情報は、V層やVI層から大脳皮質の外(脊髄や脳幹、視床等)へと出力される。すなわち、大脳皮質が正しく構築されるためには、神経細胞がinside-out様式で配列するだけではなく、各層に特異的な正しいサブタイプの神経細胞に適切に分化する必要がある。
 従来は、脳室面近くに存在する神経幹(前駆)細胞が、発生が進むにつれて次第にその分化ポテンシャルを変化させ、次々に異なるサブタイプの神経細胞を産生するという考え方が一般的に受け入れられてきた(図A)。一方、神経細胞として産生され移動を終了した後に、その置かれた場の影響を受けて特定のサブタイプの細胞へと分化するよう制御されるという可能性も想定できる(図B)。しかしながら、後者の可能性についてはこれまでほとんど検討されてこなかった。
 我々は最近、少なくともII〜IV層の細胞については、神経細胞として誕生した時期にはまだ完全には特異化されておらず、移動終了後にその局所の細胞外環境の影響によって特定のサブタイプへと特異化されて分化することを見出した(Oishi, et al. eLife, 2016)。すなわち、神経細胞の移動は、適切な場に細胞を配置させ、層特異的な細胞外環境に曝露させることによって、特定のサブタイプへの分化を促すためにも重要な意義を有することが明らかになった。
 II-IV層に配置されるべき未成熟神経細胞は、最終的にはそれぞれの細胞が置かれた場の影響によってII/III層タイプになるかIV層タイプになるかのどちらか一方を選択することになるが、それはどのようなしくみによってなされるのであろうか?我々は、それぞれのタイプへの分化を制御する二種の転写因子の相互抑制によって制御されていることを見出した(Oishi, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2016)。相互抑制のため、positive feedbackとなり確率的に両者のいずれか一方にのみ分化できると考えられる。
 
1) 神経細胞が置かれた場に依存して分化運命が変化する機構
2) 転写因子の相互抑制によって分化運命が選択される機構

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