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神経細胞が置かれた場に依存して分化運命が変化する機構

細胞外の「場」によるII〜IV層細胞のサブタイプ分化
 このプロジェクトは、Protocadherin20 (Pcdh20)というIV層に特異的に発現する膜タンパク質の解析から始まった。Pcdh20の遺伝子発現を人為的に抑制すると、神経細胞の放射状移動には影響がなく辺縁帯直下まで正常に移動できるものの、細胞の最終的な配置に異常が生じ、本来IV層に配置されるはずの神経細胞の多くがII/III層に配置された。驚いたことに、この神経細胞はIV層サブタイプの特徴(遺伝子発現や投射パターン)を失い、代わりに第II/III層サブタイプの特徴を獲得することがわかった。さらに、細胞外の「場」がサブタイプ決定に関与するか調べるために、また、別の方法でIV層細胞の配置を変化させると、同様にサブタイプの転換が起こることが明らかになった。これらの結果から、IV層の未成熟神経細胞は周囲の環境に依存して最終的なサブタイプを決定することが示唆された (Oishi et al., eLife, 2016他)。
 次に細胞外の「場」とは一体何なのか解析を行った。IV層は視床からの入力を受ける主要な細胞集団である。発生過程において、視床の軸索がIV層に到達する時期にIV層へのサブタイプ特異化が起こることから、視床軸索がその「場」として機能する可能性が考えられた。そこで、視床から皮質への投射軸索のない遺伝子改変マウスを調べたところ、IV層神経細胞が減少し、逆にII/III層神経細胞が増加することが明らかになった。以上の結果より、視床からの軸索が、何らかのメカニズムによってIV層細胞の分化を惹起する可能性が示唆された。現在、この過程にどのような分子機構が関与するのか明らかにしようとしている。

新たな細胞分化の「場」の探索
 大脳皮質の特徴の一つは、整然とした層構造であり、その構造が分化決定に様々な場面で利用されることは、可能性として十分に考えられる。層構造は、神経細胞の配置の形態学的な特徴で定義されているが、それと共に大脳皮質内外の神経軸索や樹状突起の分布にも層特異性があり、多様な細胞外環境が存在する。現在、未成熟神経細胞の分化を制御する新たな細胞外環境の探索を行っている。

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