Dab1核細胞質間シャトリングの役割の解明
発生期の大脳新皮質において脳室帯で誕生した神経細胞は、脳表面に向かって移動し、辺縁帯直下で移動を終了させ、樹状突起を発達させた後、皮質と呼ばれる層構造を作る。これまで、辺縁帯にあるCajal-Retzius細胞から分泌されるReelinが、神経細胞の細胞内のDab1のチロシンをリン酸化し、神経細胞の移動や配置に大変重要な役割を果たしている事が、変異マウス (それぞれreelerとyotari) の解析等から明らかにされてきた 。Reelin-Dab1シグナルがどのような分子に伝達され、どのように神経細胞の配置を制御し大脳新皮質層形成に関与しているか、つまりReelinシグナルのアウトプットが何であるのかは永らく明確な答えは得られていなかった。Dab1のチロシンリン酸化がReelinシグナルの伝達に必須であることから、リン酸化Dab1に結合する分子を手がかりに、下流分子の探索が行なわれ、我々のグループも含め、N-cadherinとIntegrin α5β1が、Reelinシグナルに依存した神経細胞の移動過程に必要であることが示された。
一方我々は、Dab1の一次アミノ酸配列を解析している際に、Dab1がbipartiteタイプの核移行シグナル(NLS)を持つことに気がついた。Dab1が核移行するか検証する為、培養細胞に発現した所、予想に反して細胞質でのみシグナルが観察された。NLSが核移行活性を持つか検証する為、NLSをGSTとGFP間に挿入した融合タンパク質を作成し、培養細胞の細胞質にマイクロインジェクションを行った所、核移行が観察された為、Dab1は何らかの理由で細胞質に局在していることが示唆された。核移行シグナルを持つ多くのタンパク質は核外移行シグナル(NES: Nuclear Export Signal)も併せ持つことが多いことが知られていたため、Dab1の一次配列を調べた所、複数箇所でNES様の配列が見つかった。Dab1の細胞質での局在がNESを介した核外輸送によるものか検証するため、NESを認識して核外輸送を担うタンパク質であるCRM1の活性を阻害するleptomycin Bで阻害した所、Dab1の核での局在が観察された。このため、Dab1はCRM1依存性に核外輸送を受ける核細胞質間シャトリングタンパク質であることが示唆された。様々なdeletion mutantやpoint mutantの作成により、Dab1は2つのNES(NES1/2)を持つことが示された(Honda ana Nakajima, J.B.C., 2006)。
Dab1の核移行の役割を明らかにする為、Dab1のNLSに点変異を導入し、核移行活性が消失するか検証した所、意外なことにDab1は依然として核移行活性を有していることが明らかになり、未知のNLSが存在していることが示唆された(始めに同定されたNLSをNLS1とする)。実際に未知のNLSが存在しているか検証する為、GST-NLS1-EGFPの融合タンパク質と、全長Dab1のNLS1変異体の生化学的な核移行活性を調べた所、異る性質を持つことが示され、Dab1には少なくとも2つのNLSが存在していることが示唆された。Dab1の核移行が神経細胞移動に果たす役割をIn uteroエレクトロポレーション法を用いて解析した。その結果、神経細胞移動には細胞質のDab1のタンパク質量が適量になるよう調節される必要があり、その細胞質でのタンパク質量調節をDab1が核移行することで制御している可能性が示唆された(Honda ana Nakajima, Cerebral Cortex, 2016)。