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Reelinが神経細胞の凝集を誘導することの発見とその機構

 Reelinは、移動神経細胞に対するストップシグナルであると長年考えられてきた。そこで我々は、子宮内電気穿孔法によって移動途中に異所的にReelinを強制発現させてその影響を調べてみた。その結果、移動細胞はReelinによって単純に停止するのではなく、異所的に細胞凝集塊を形成することを見いだした。また、凝集塊中の各細胞は突起を凝集塊の中心に向けて放射状に配列しており、その凝集塊中心近くからは細胞体が排除されて突起のみが高密度に分布していることがわかった。この部位にはReelinが濃縮して局在しており、集まった突起は樹状突起に分化していくこともわかった。つまり、本来Reelinが局在している部位である脳表面の辺縁帯及びその直下の構造ときわめて良く似た構造が、異所的にReelinによって誘導されることが明らかになった。しかも、本来辺縁帯直下で正常移動細胞が示すように、後輩細胞が先輩細胞を追い越して、中心近くの辺縁帯様領域(細胞体がほとんど存在しないReelin陽性領域)に接した部位まで移動して停止することがわかった(Kubo, et al. J. Neurosci., 2010)。以上より、Reelinはin vivoにおいて異所的に辺縁帯様構造を誘導し、かつ移動神経細胞のinside-out様式での凝集を引き起こす機能を有することが明らかになった(図A)。

 上記の細胞凝集の解釈として、Reelinが神経細胞間の接着力を高めて凝集させているという可能性以外に、Reelinに接した神経細胞が周囲の環境から反発されて(水の中の油のように)凝集塊を形成したという可能性も想定できる。そこで、Reelin欠損マウス(reeler)の大脳皮質細胞を分散させ、Reelinを添加する実験を行ってみた。その結果、確かに神経細胞がReelinによって凝集することが確認された。また、この凝集はN-カドヘリンを介していることもわかった。その接着力増強は持続的ではなく、一過的であることが数理モデルを使ったシミュレーションで示唆されたため、原子間力顕微鏡を使った実験により証明し、さらにその皮質形成における重要性を子宮内電気穿孔法によって示した(Matsunaga, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2017)(図B)。我々は以前、各層を構成する神経細胞が、神経細胞としての誕生時期依存的に互いに選別される能力をReelinシグナル非依存的に獲得することも見出しており(Ajioka et al., Eur. J. Neurosci., 2005)、上記のReelin依存的な凝集機構との協調によって、inside-out様式での層形成が正しく実現されると考えられる。

図A Reelinを異所的に強制発現すると細胞凝集塊が形成される

A-1 Reelinを強制発現させた時にみられる凝集塊

A-2 Reelinによる異所的凝集塊形成過程の模式図

図B Reelinによる神経細胞間の接着の制御

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