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抑制性神経細胞の新しい移動経路の発見と移動先を選択する機構

 脳内の神経細胞には、基本回路を作る興奮性神経細胞と、それらの活動を調節する抑制性神経細胞の2種類がある。それらが脳内でバランス良く配置されネットワークを形成することによって、脳は正しく機能している。興奮/抑制のバランス異常は、統合失調症、自閉症、てんかん等と関連している可能性が注目されている。

 胎生期において、神経細胞は誕生部位から様々な場所に移動して回路網に取り込まれていく。特に抑制性神経細胞は、興奮性神経細胞と比べて移動する距離が長く、脳の中の広い領域に分布するため、各領域にバランスよく配置されるためには、抑制性神経細胞が自らの目的地を適切に選択して移動していくことが重要と考えられる。しかしながら、その移動先を選択するメカニズムはよくわかっていない。

 我々は、マウス胎児脳の細胞を可視化して観察した結果、視索前野に由来する抑制性神経細胞が、興味深い移動様式を示すことを見出した。すなわち、それらは視索前野から細いルートを束になって尾側に移動し、将来扁桃体になる領域に進入していくことがわかった。また、その移動経路の途中から、一部の神経細胞が移動方向を変えて大脳皮質に向かっていくことを発見した。さらに、その細胞移動の目的地選択が、特定の分子経路によるスイッチのON/OFFによって制御されていることを見出した。すなわち、転写制御因子COUP-TFII及びその下流で発現が調節されるニューロピリン- 2という受容体がONのままだと扁桃体に進入し、その経路が途中でOFFになると移動方向を変えて大脳皮質に向かうようになることがわかった(Kanatani, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 2015)。

視索前野から尾側に向かって移動する抑制性神経細胞

分子スイッチのON/OFFによって目的地が選択される。

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