Nakajima Lab

Department of Anatomy

Keio University School of Medicine

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海馬の神経細胞はロッククラミングのようにジグザグ移動する

  —大脳新皮質と海馬の神経細胞移動様式の違いー

 海馬が記憶や学習を司る事は良く知られているが、発生過程において細胞たちが海馬を形成していく過程については、あまりよくわかっていない。海馬は、神経細胞が高密度に集まった錐体細胞層と呼ばれる構造を有しており、大脳新皮質とは全く異なった特徴を示す。大脳新皮質の興奮性神経細胞の移動様式については、これまでの研究でかなり詳細にわかってきた(Tabata and Nakajima. J. Neurosci., 2003; Tabata et al. Cereb. Cortex, 2009他)が、海馬も同様な移動様式で形成されていくのであろうか?それとも、完成した構造の違いを反映して、細胞たちも全く異なるユニークな方式で海馬の錐体細胞層を形成していくのであろうか?

 この疑問に答えるため、我々はマウス海馬に対する子宮内電気穿孔法による遺伝子導入法を確立し、海馬CA1領域の移動細胞を可視化して調べてみた。

 その結果、脳室帯での最終分裂を終えて脳表面側へと移動し始めたばかりの神経細胞の動きは、大脳新皮質において我々が発見し命名した“多極性移動”(multipolar migration)と呼ばれる移動様式(Tabata and Nakajima. J. Neurosci., 2003他)と同様であることが明らかになった。

 ところが、その後に大脳新皮質とは大きく異なった動きを示すことを発見した。  大脳新皮質の神経細胞は、多極性移動細胞から形態を変化させ、双極性の形態をとって脳表面側へと移動する(Tabata et al. Cereb. Cortex, 2009他)。その際、移動細胞は脳表面側に一本の先導突起を伸ばし、1本の放射状グリア線維を足場としてそれに巻き付きながらほぼまっすぐに登っていく(“ロコモーション様式”)。一方、海馬CA1の錐体細胞は、まるでロッククライマーのように複数の突起を出したり引っ込めたりしながら、複数の放射性グリア線維をつかみ、細胞体をジグザグと小刻みに動かしながら登っていくことを明らかにした。このユニークな動きはこれまでに報告がない細胞移動様式であったため、新たに“クライミング様式”(Climbing mode)と命名して報告した(Kitazawa, et al. J. Neurosci., 2014)。

 なぜ海馬の細胞は大脳新皮質の細胞と全く異なる移動様式を取るのか?錐体細胞層という高密度の構造を作ることに関係した積極的な工夫なのか?それとも、高密度であるがためにそのような動きにならざるを得ないのか?それに答えるための実験を、現在遂行中である。

移動様式の模式図とEGFPで標識した移動中の細胞

ロコモーション様式とクライミング様式(10min interval)